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ryuzeeによるブログ記事。不定期更新
アジャイル開発に取り組むチーム向けのコーチングや、技術顧問、認定スクラムマスター研修などの各種トレーニングを提供しています。ぜひお気軽にご相談ください(初回相談無料)

アジャイルコーチって何するの?

みなさんこんにちは。@ryuzeeです。

InfoQに“アジャイルコーチ” とは何か という記事があったので、アジャイルコーチとして活動している僕が普段どんなことをやっているのか説明したいと思います。

オンラインでのコミュニケーション

TwitterやFacebook、そしてこのサイトからアジャイルに取り組んでいる方や、これから取り組みをはじめようとする方からよくご質問を頂きます。 コーチとしては、実践する上でどういうことに困っているかを色々と知ることができるので大変ありがたいです。 特に金銭のやりとりはありませんが、コーチとして責任をもった回答をする必要があると思っているので、文献や海外のサイトや海外の著名トレーナーの資料などを参照しつつ自分の見解も交えて回答させて頂いているつもりです。 質問は回答をうける側よりも、回答する側のトレーニングになると思っています。 質問頂いた内容は、一般化してサイトに記事として載せたりもします。 より詳細な話を、ということになると実際にお伺いしてお話することも多いですし、その縁で、プライベートで社内講演をさせて頂くこともあります。

集合研修の実施

実際の仕事の入り口として多いのが集合研修です。 これからアジャイル開発に取り組もうとされている企業様向けに20人〜30人規模で実施することが多いです。 アジャイルやスクラムについて教えることは勿論ですが、なぜそのやり方が必要なのか、いままでのやり方とは考え方がどう違うのかといったことや、そもそもアジャイル開発も手法の1つなので、本当にやるべきことは何なのか、ムダの取り方、仕事の進め方や考え方なんかを中心に教えることが多いです。 研修時間の半分はワークショップに割いているのですが、これは座学だけでは分からないことを身をもって体験することが大事だと思っているからです。 体験があれば、後から研修資料や他の書籍を読むことで、腑に落ちるようになります。 研修の内容は参加者の反応によって変えることもよくあります。例えば質問が多い領域のワークショップを追加したり、復習のためのワークショップを追加したりします。 2日に分けて同一企業の異なる参加者に研修を行うことも頻繁にありますが、初日と二日目で内容が違うのも普通です。

研修実施後は参加者の方からの質問メールに対応したり、2週間〜1ヶ月後くらいを目処にフォローアップに伺って疑問点を直接説明したり、要望に応じて特定の領域をさらに詳しく説明したりします。 例えば、先日はプロダクトバックログを演習で作ったのですが、フォローアップで実際のプロジェクトのプロダクトバックログを一緒につくって実際作る上でのポイントを再度説明したりしました。

オンサイトでの支援

こちらも実際の仕事でご依頼頂くことが多いです。大きくわけて2つのパターンがあります。 1つはお客様のところに席やPCを用意頂いて、チームと一緒に仕事をするパターン、もう1つは、スクラムの定期イベントにあわせて訪問するパターンです。 訪問回数は多めです。

前者の場合は、アジャイルやスクラムに関係がない話でもチームと一緒に行なっていきます。 アジャイルなやり方を教え、スクラムの各種イベントのファシリテーションをしたりプロダクトバックログやスプリントバックログなどの成果をチェックしたりしつつ、テスト戦略を一緒に考えたり、テストコードの書き方を教えて一緒に書いたり、継続的インテグレーションサーバをチームと一緒に構築したり、リリース手順や切り替え手順をレビューしたり、コードレビューしたり、デプロイの自動化を一緒に行ったり、開発環境を作ったり、パフォーマンスチューニングを一緒にやったり、お客様への説明を一緒にしたり、会議のやり方を指導したりと、広範囲にわたってチームと一緒に仕事をするわけです。 このパターンでは、チームが僕をどう使うかはチームが決めます。 基本的に僕はプロダクションコードは書きませんが、それ以外のことはチームの依頼で動きます(勝手に引っ張っていくわけではありませんし、アジャイルやスクラムの導入を強制するわけでもありません。あくまで主役はチームなのでチームが依頼しないと僕は遊んでます。 コーチは豚ではなく鶏です。 結果責任も取れません。 でも勿論チームにはもっと上手にお客様の期待に応えられるようになってほしいし、自分たちが楽しく仕事をできるようになってほしいと思っていますし、そのお手伝いをしているつもりです)。 お客様やプロジェクトによって開発言語やツール群が異なるので、それぞれについて仕込みしておく必要はあり、技術的にも楽しいことが多いです。 今年を例にすると、PHP、Perl、C#、Rubyの現場を支援しました。

もうひとつのパターンは指定された時間にお客様先を訪問して、スクラムイベントを一緒に行うパターンです。 お客様先にPCは用意されていないので、仕事の進め方やスクラムイベントの進め方を中心にサポートします。 ふりかえりのサポートをして、チームが実行可能な改善活動を行えているか、外部からの圧力に屈していないかといった点をチェックしたり、スプリントレビューで、開発チームが成果物を届けていて、プロダクトオーナーの合否判定を受けているか、フィードバックプロセスが回っているかといったことをチェックします。 もちろん会議のやり方や時間の使い方といったアジャイルに直接関係ないことも支援の対象です。 このケースの場合はお客様先にスクラムマスターが存在しているケースが多く、その人のサポートを中心にしていきます。 またチームからの質問に答える時間を作ったりメールで質問をもらうようにして、問題の解決を先延ばしにしないようにフォローします。

いずれの支援の場合も3ヶ月から半年くらいの期間になることが多いです。 僕自身は長期契約はすべきではないと思っているので、通常は1ヶ月単位の訪問回数による実費精算での契約をお願いしており、お客様が解約しやすいようにしています。 うまく改善が進んでいけば通常コーチはそのくらいの期間で不要になっていきます。

ちなみによく聞かれるのですが、コーチを入れたからといって必ずプロジェクトが成功したり現場が変わったりするわけでありません。 実際にやるのはチームであり現場の人たちです。言い訳に聞こえるかもしれませんがコーチは触媒でありきっかけです。 したがって同じ会社でもあるチームはうまくいって、あるチームはうまくいかないとかそういうのもあり得ます(個人的には自分の力不足をハンセイすることも勿論あります)。 また会社の組織的な問題が妨害になっているケースもあります。 例えば人事考課が個人の成果の量で行われていてお互いに協力しあう文化がないとか、似たような考え方の人が多すぎるとか、そもそも集中して仕事をする環境でないとかです。 そういう場合はマネジメント層と一緒になって改善を行う場合もあります。

イベントへの登壇や開催など

オープン、クローズド問わずイベントで登壇したりします。 オファーは平日であれば全て受けるポリシーです。 オープンなところで使った資料はスライド共有サイトで公開しています。登壇は自分の知識を整理したり考え方をまとめる良い機会です。 また参加者の方とディスカッションするのもとても有意義だと思っています。 登壇用に作った資料を普段のコーチングや研修にバックポートすることもよくあります。

アジャイルやスクラムは手段だと思っている一方で僕自身はスクラムは良いやり方だと思っているので、多くの方に知ってもらいたいと思っています。 どのプロジェクトもスクラムでやればいいというわけでは決してありません。 従来のやり方の方が良い場合もあります。 1つのやり方しか知らないと選択肢がなくなってしまい合わないやり方をせざるを得ない、そういうのは勿体ないと考えています。

大学でアジャルな開発のやり方を教えているのもその一環です。

最後に

僕がウェイトを置いているのはチームや組織の改善ですが、一方で、どのようなプロダクトを作るのか、それはどうやって見つけて決めていくのか、というのもコーチがカバーすべき範囲のようにも見えます。 たとえばリーンキャンバスやユーザーストーリーマッピング、ペルソナといった手法、ユーザビリティの領域などなど。 このあたりは自分自身ではまだ答えは出ていません。 ただ最近アジャイルコーチに求められるものがどんどん増えているようにも思います(もやもや中)。 とはいえ一人のコーチとして全ての範囲をケアすることは現実的にはむずかしいのかなぁ考えています。 なのでコーチを探すときはどういう領域でコーチに手伝ってほしいのかは依頼側でよく考えたほうが良いのではないかと思います。

それでは。

  • スクラム実践者が知るべき97のこと
  • 著者/訳者:Gunther Verheyen / 吉羽龍太郎 原田騎郎 永瀬美穂
  • 出版社:オライリージャパン(2021-03-23)
  • 定価:¥ 2,640
  • スクラムはアジャイル開発のフレームワークですが、その実装は組織やチームのレベルに応じてさまざまです。本書はスクラムの実践において、さまざまな課題に対処してきた実践者が自らの経験や考え方を語るエッセイ集です。日本語書き下ろしコラムを追加で10本収録
  • プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける
  • 著者/訳者:Melissa Perri / 吉羽龍太郎
  • 出版社:オライリージャパン(2020-10-26)
  • 定価:¥ 2,640
  • プロダクト開発を作った機能の数やベロシティなどのアウトプットで計測すると、ビルドトラップと呼ばれる失敗に繋がります。本書ではいかにしてビルドトラップを避けて顧客に価値を届けるかを解説しています。
  • SCRUM BOOT CAMP THE BOOK 【増補改訂版】
  • 著者/訳者:西村直人 永瀬美穂 吉羽龍太郎
  • 出版社:翔泳社(2020-05-20)
  • 定価:¥ 2,640
  • スクラム初心者に向けて基本的な考え方の解説から始まり、プロジェクトでの実際の進め方やよく起こる問題への対応法まで幅広く解説。マンガと文章のセットでスクラムを短期間で理解できます。スクラムの概要を正しく理解したい人、もう一度おさらいしたい人にオススメ。
  • みんなでアジャイル ―変化に対応できる顧客中心組織のつくりかた
  • 著者/訳者:Matt LeMay / 吉羽龍太郎、永瀬美穂、原田騎郎、有野雅士
  • 出版社:オライリージャパン(2020-3-19)
  • 定価:¥ 2,640
  • アジャイルで本当の意味での成果を出すには、開発チームだけでアジャイルに取り組むのではなく、組織全体がアジャイルになる必要があります。本書にはどうやってそれを実現するかのヒントが満載です
  • レガシーコードからの脱却 ―ソフトウェアの寿命を延ばし価値を高める9つのプラクティス
  • 著者/訳者:David Scott Bernstein / 吉羽龍太郎、永瀬美穂、原田騎郎、有野雅士
  • 出版社:オライリージャパン( 2019-9-18 )
  • 定価:¥ 3,132
  • レガシーコードになってから慌てるのではなく、日々レガシーコードを作らないようにするにはどうするか。その観点で、主にエクストリームプログラミングに由来する9つのプラクティスとその背後にある原則をわかりやすく説明しています。
  • Effective DevOps ―4本柱による持続可能な組織文化の育て方
  • 著者/訳者:Jennifer Davis、Ryn Daniels / 吉羽 龍太郎、長尾高弘
  • 出版社:オライリージャパン( 2018-3-24 )
  • 定価:¥ 3,888
  • 主にDevOpsの文化的な事柄に着目し、異なるゴールを持つチームが親和性を高め、矛盾する目標のバランスを取りながら最大限の力を発揮する方法を解説します
  • ジョイ・インク 役職も部署もない全員主役のマネジメント
  • 著者/訳者:リチャード・シェリダン / 原田騎郎, 安井力, 吉羽龍太郎, 永瀬美穂, 川口恭伸
  • 出版社:翔泳社( 2016-12-20 )
  • 定価:¥ 1,944
  • 米国で何度も働きやすい職場として表彰を受けているメンローの創業者かつCEOであるリチャード・シェリダン氏が、職場に喜びをもたらす知恵や経営手法、より良い製品の作り方などを惜しみなく紹介しています
  • アジャイルコーチの道具箱 – 見える化の実例集
  • 著者/訳者:Jimmy Janlén / 原田騎郎, 吉羽龍太郎, 川口恭伸, 高江洲睦, 佐藤竜也
  • 出版社:Leanpub( 2016-04-12 )
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  • カンバン仕事術 ―チームではじめる見える化と改善
  • 著者/訳者:原田騎郎 安井力 吉羽龍太郎 角征典 高木正弘
  • 出版社:オライリージャパン( 2016-03-25 )
  • 定価:¥ 2,138
  • チームの仕事や課題を見える化する手法「カンバン」について、その導入から実践までを図とともにわかりやすく解説した書籍。カンバンの原則などの入門的な事柄から、サービスクラス、プロセスの改善など、一歩進んだ応用的な話題までを網羅的に解説します。
  • Software in 30 Days スクラムによるアジャイルな組織変革“成功"ガイド
  • 著者/訳者:Ken Schwaber、Jeff Sutherland著、角征典、吉羽龍太郎、原田騎郎、川口恭伸訳
  • 出版社:アスキー・メディアワークス( 2013-03-08 )
  • 定価:¥ 1,680
  • スクラムの父であるジェフ・サザーランドとケン・シュエイバーによる著者の日本語版。ビジネス層、マネジメント層向けにソフトウェア開発プロセス変革の必要性やアジャイル型開発プロセスの優位性について説明
  • How to Change the World 〜チェンジ・マネジメント3.0〜
  • 著者/訳者:Jurgen Appelo, 前川哲次(翻訳), 川口恭伸(翻訳), 吉羽龍太郎(翻訳)
  • 出版社:達人出版会
  • 定価:500円
  • どうすれば自分たちの組織を変えられるだろう?それには、組織に変革を起こすチェンジ・マネジメントを学習することだ。アジャイルな組織でのマネージャーの役割を説いた『Management 3.0』の著者がコンパクトにまとめた変化のためのガイドブック