ブログ

ryuzeeによるブログ記事。不定期更新
アジャイル開発に取り組むチーム向けのコーチングや、技術顧問、認定スクラムマスター研修などの各種トレーニングを提供しています。ぜひお気軽にご相談ください(初回相談無料)

スキルマップ作成のすすめ

チームでの開発って大変だけど楽しいと思ってるみなさんこんにちは。@ryuzeeです。

チームは共通の目標に向かって日々の仕事に取り組んでいくことになりますが、そのためにはメンバーそれぞれが必要なスキルをもっている必要があります。このスキルを見える化するテクニックの1つとしておすすめなのが、スキルマップです。

作り方は簡単で以下の図のように横軸に必要なスキルを、縦軸にチームメンバーの名前を入れます。それぞれのマスでは、その人のスキル度合いを表す印を入れていきます。ここでは、★:エース、◎:得意、○:一人でできる、△:助けがあればできる、空欄:できない、・:今後習得したい、というようにしていますが、この記号はチームで好きに決めて構いません。

このスキルマップの効用と運用について見ていきましょう。

効果:スキルの見える化

長い間同じチームで働いていれば、誰が何をできるのかはだんだん分かっていきますが、新しく作ったチームだったり新しいメンバーがチームにどんどん入ってくるような状況だと、誰が何をできるのかは意外とわからないものです。一方でこのように見える化されていると、困ったときに誰に聞けばよさそうかがすぐに分かります。とくに新しくチームの入った人が課題に遭遇したときには、チケットなどで聞いたりする以外に対面やDMで質問することになりますが、そのときにムダが少なくなります。 また得意なのかそうでないのかが分かっていることで、レビューの粒度や頻度を変えることもできるでしょう。

効果:リスクの見える化

この図をみてみると、この仮想プロジェクトではFluentdを利用していることが分かりますが、それに対処できるのは1人しかいないことが分かります。プロジェクトの重要な箇所でないのであれば構わないのですが、これがもしFluentdに非常に依存したプロジェクトであった場合、その1人が急病になってしまったり会社を辞めてしまうとプロジェクトの進行自体のリスクになってしまうことが分かります。いわゆるSPOF(Single Point Of Failure:単一障害点)のようなものです。この場合はプロジェクトのリスクを低減するために早めにこのスキルを持った人をプロジェクトに入れるか他のメンバーがそのスキルを身につける必要があります。

効果:人前で宣言することによる学習速度の向上

この例では「・」をつけると今後学習したい、というのを示しています。人間の特性として人前で宣言すればやらざるを得なくなるというのがあるので、学習を進める効果もあります。トヨタの場合は多能工星取表というものがあり、それを全部埋めていくことでより多くのことができるエンジニアとして認定されていきます。

運用:フィードバックプロセスを短いサイクルで回す

このスキルマップは一度作ったら終わりではありません。1か月単位くらいで常時更新をかけていきます。プロジェクトではどんどん変化がおこり場合によっては新しい要素技術が必要になるかもしれません。また人のスキルも日々向上していきます。それを反映していないと、そのうちなんの役にもたたなくなります。 また、例えば毎月更新するのにあわせてメンバーのスキルを1:1の会議などで確認することで、学習がどれくらい進んでいるのか、プロジェクトでどのくらいスキルを発揮できそうかが明らかになっていきます。

運用:人事評価とからめない

スキルが見える化されるとマネージャーはどうしてもそれを人事評価に使いたがりますが、それは避けるべきです。特に具体的基準値が不明であればあるほど、評価が下がるのを嫌がって過大申告してくることもあり、それによって効果が失われてしまいます。これは例えばコミットした回数、書いたコードの行数、さばいたチケットの数によって人事評価をしてしまった場合と同じような弊害があります。

運用:全社共通のスキルマップにしない

これは上に書いた話とほぼおなじです。プロジェクトを円滑に推進し、リスクを減らし、個人のスキルを高めるためにやるのであり、「全社標準エンジニアスキル」みたいにしてしまうとプロジェクト固有の情報がどんどん見えなくなっていきます。また全社共通というのは評価を意図しているケースが多いものなのでその点でもダメでしょう。

運用:項目はチームで決めて形式も変えてよい

前述の通りチームのものなので、必要に応じて項目を追加したりフォーマットを変えて構いません。たとえば表の例では、Gitはほぼ全員が習得しているので敢えてこの表で見える化されている必要はないかもしれません。また例では技術的な項目が多くなっていますが、見積りとかドキュメント作成とか他にもプロジェクトに必要なスキルはたくさんありますので、必要だと思うものを入れてください。

ということで…

まずは一度やってみると良いと思います。

  • スクラム実践者が知るべき97のこと
  • 著者/訳者:Gunther Verheyen / 吉羽龍太郎 原田騎郎 永瀬美穂
  • 出版社:オライリージャパン(2021-03-23)
  • 定価:¥ 2,640
  • スクラムはアジャイル開発のフレームワークですが、その実装は組織やチームのレベルに応じてさまざまです。本書はスクラムの実践において、さまざまな課題に対処してきた実践者が自らの経験や考え方を語るエッセイ集です。日本語書き下ろしコラムを追加で10本収録
  • プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける
  • 著者/訳者:Melissa Perri / 吉羽龍太郎
  • 出版社:オライリージャパン(2020-10-26)
  • 定価:¥ 2,640
  • プロダクト開発を作った機能の数やベロシティなどのアウトプットで計測すると、ビルドトラップと呼ばれる失敗に繋がります。本書ではいかにしてビルドトラップを避けて顧客に価値を届けるかを解説しています。
  • SCRUM BOOT CAMP THE BOOK 【増補改訂版】
  • 著者/訳者:西村直人 永瀬美穂 吉羽龍太郎
  • 出版社:翔泳社(2020-05-20)
  • 定価:¥ 2,640
  • スクラム初心者に向けて基本的な考え方の解説から始まり、プロジェクトでの実際の進め方やよく起こる問題への対応法まで幅広く解説。マンガと文章のセットでスクラムを短期間で理解できます。スクラムの概要を正しく理解したい人、もう一度おさらいしたい人にオススメ。
  • みんなでアジャイル ―変化に対応できる顧客中心組織のつくりかた
  • 著者/訳者:Matt LeMay / 吉羽龍太郎、永瀬美穂、原田騎郎、有野雅士
  • 出版社:オライリージャパン(2020-3-19)
  • 定価:¥ 2,640
  • アジャイルで本当の意味での成果を出すには、開発チームだけでアジャイルに取り組むのではなく、組織全体がアジャイルになる必要があります。本書にはどうやってそれを実現するかのヒントが満載です
  • レガシーコードからの脱却 ―ソフトウェアの寿命を延ばし価値を高める9つのプラクティス
  • 著者/訳者:David Scott Bernstein / 吉羽龍太郎、永瀬美穂、原田騎郎、有野雅士
  • 出版社:オライリージャパン( 2019-9-18 )
  • 定価:¥ 3,132
  • レガシーコードになってから慌てるのではなく、日々レガシーコードを作らないようにするにはどうするか。その観点で、主にエクストリームプログラミングに由来する9つのプラクティスとその背後にある原則をわかりやすく説明しています。
  • Effective DevOps ―4本柱による持続可能な組織文化の育て方
  • 著者/訳者:Jennifer Davis、Ryn Daniels / 吉羽 龍太郎、長尾高弘
  • 出版社:オライリージャパン( 2018-3-24 )
  • 定価:¥ 3,888
  • 主にDevOpsの文化的な事柄に着目し、異なるゴールを持つチームが親和性を高め、矛盾する目標のバランスを取りながら最大限の力を発揮する方法を解説します
  • ジョイ・インク 役職も部署もない全員主役のマネジメント
  • 著者/訳者:リチャード・シェリダン / 原田騎郎, 安井力, 吉羽龍太郎, 永瀬美穂, 川口恭伸
  • 出版社:翔泳社( 2016-12-20 )
  • 定価:¥ 1,944
  • 米国で何度も働きやすい職場として表彰を受けているメンローの創業者かつCEOであるリチャード・シェリダン氏が、職場に喜びをもたらす知恵や経営手法、より良い製品の作り方などを惜しみなく紹介しています
  • アジャイルコーチの道具箱 – 見える化の実例集
  • 著者/訳者:Jimmy Janlén / 原田騎郎, 吉羽龍太郎, 川口恭伸, 高江洲睦, 佐藤竜也
  • 出版社:Leanpub( 2016-04-12 )
  • 定価:$14.99
  • この本は、チームの協調とコミュニケーションを改善したり、行動を変えるための見える化の実例を集めたものです。96個(+2)の見える化の方法をそれぞれ1ページでイラストとともに解説しています。アジャイル開発かどうかに関係なくすぐに使えるカタログ集です
  • カンバン仕事術 ―チームではじめる見える化と改善
  • 著者/訳者:原田騎郎 安井力 吉羽龍太郎 角征典 高木正弘
  • 出版社:オライリージャパン( 2016-03-25 )
  • 定価:¥ 2,138
  • チームの仕事や課題を見える化する手法「カンバン」について、その導入から実践までを図とともにわかりやすく解説した書籍。カンバンの原則などの入門的な事柄から、サービスクラス、プロセスの改善など、一歩進んだ応用的な話題までを網羅的に解説します。
  • Software in 30 Days スクラムによるアジャイルな組織変革“成功"ガイド
  • 著者/訳者:Ken Schwaber、Jeff Sutherland著、角征典、吉羽龍太郎、原田騎郎、川口恭伸訳
  • 出版社:アスキー・メディアワークス( 2013-03-08 )
  • 定価:¥ 1,680
  • スクラムの父であるジェフ・サザーランドとケン・シュエイバーによる著者の日本語版。ビジネス層、マネジメント層向けにソフトウェア開発プロセス変革の必要性やアジャイル型開発プロセスの優位性について説明
  • How to Change the World 〜チェンジ・マネジメント3.0〜
  • 著者/訳者:Jurgen Appelo, 前川哲次(翻訳), 川口恭伸(翻訳), 吉羽龍太郎(翻訳)
  • 出版社:達人出版会
  • 定価:500円
  • どうすれば自分たちの組織を変えられるだろう?それには、組織に変革を起こすチェンジ・マネジメントを学習することだ。アジャイルな組織でのマネージャーの役割を説いた『Management 3.0』の著者がコンパクトにまとめた変化のためのガイドブック