ブログ

ryuzeeによるブログ記事。不定期更新

エンジニアのキャリアパスに思うところ

みなさんこんにちは。@ryuzeeです。

世の中ではエンジニアが35歳すぎたらどうする?といった話が最近話題になっていますが、ちょっとエンジニアのキャリアパスについて考えてみました。

なんで35歳が転機だと言われているのか

以下は従来の会社にありがちなキャリアパスの構造です。 最初はアソシエイト(見習い)エンジニアとしてキャリアをスタートして、その後エンジニアとして自分で仕事を進められるようになります。 そしてエンジニアとして優秀で、昇進するという場合に、エンジニア職をやめて管理職にロールチェンジするしかないというものです。 35歳くらいがそのタイミングだ、ということですね。

レベルエンジニア系(個人型)管理職系
5 ディレクター
4 シニアマネージャー
3(シニアエンジニア)マネージャー
2エンジニア 
1アソシエイトエンジニア 

ここでのよくある問題点としては以下のようなものが挙げられます。

  • 組織の制度設計的に、ロールチェンジしないと給与があがらない仕組みになっていることが多い(エンジニアとして活動してもらえる給与の上限が低い)
  • 生活スタイルや家族観については多様な考え方があるとはいえ、一般的には35歳〜50歳くらいまでの間はお金がかかりやすい。そして途中で生活のために今までやっていたことを望むかどうかに関係なく捨てないといけなくなることがある(踏み絵を踏まされる)
  • 優秀なエンジニアがロールチェンジを望まず、かといって行き止まりのキャリアパスを見ると、その組織に長くいる理由がなくなる。したがって優秀な人で技術キャリアを追求したい人ほど組織から流出する
  • ロールチェンジを受け入れるにしても、そもそもエンジニア職と管理職系のスキルは延長線上にあるわけではなく、管理職としてのキャリアを再度1から積み上げないといけない
  • そしてエンジニアとして技術的に優秀だった人が、ピープルマネジメントや数字の扱い、戦略的な話についてうまくできる保証がまったくない

あるべき組織内のキャリアパス

上記のような組織内のキャリアパスの問題を解決するには、エンジニアのキャリアパスを行き止まりにしないことです。 管理職として上にいくだけでなく、エンジニアとして上にいくパスも定義して、本人の志向でどちらを選ぶのかを決められるのが望ましいと思います。

レベルエンジニア系(個人型)管理職系
5チーフエンジニアディレクター
4プリンシパルエンジニアシニアマネージャー
3シニアエンジニアマネージャー
2エンジニア 
1アソシエイトエンジニア 

このとき意識しておくべき点は以下のようなことになります。

  • エンジニアを貫くか管理職系にいくかは本人の志向によって決める
  • エンジニアから管理職になったが、やはりまたエンジニアに戻るという選択肢もある
  • ロールチェンジするときには十分な教育が必要(これは従来型のパスだろうと同じだが)
  • 自分が管理職だった場合に、自分よりもレベルが上のエンジニアが管理対象になることがある(部下の方が給与が高いことも当然ある)
  • 要はそれぞれのロールが違って責任が違うだけなので、上司なので偉いとかそういう話ではない
  • エンジニアは多くの場合、技術が分かっていない人から技術的な指示をされることに抵抗感を持つ。すなわち技術的な点の意思決定については現場やチーフエンジニアやプリンシパルエンジニアといった上級のエンジニアに委譲した方がよい
  • 年功序列ではなくて、各レベルで定められたJob Descriptionに合致しているかどうかが次のレベルにいけるかの判断基準になる

個人としての選択

個人としてどう選択するかは、完全に個人の問題であり個人の責任です。

正常性バイアス

心理学によく出てくる話に認知バイアスというものがあり、そのうちの1つに正常性バイアスがあります。正常性バイアスとは

自分にとって都合の悪い情報を無視したり、過小評価したりしてしまう人の特性のこと。自分にとって何らかの被害が予想される状況下にあっても、都合の悪い情報を無視したり、「自分は大丈夫」「今回は大丈夫」「まだ大丈夫」などと過小評価したりしてしまい、逃げ遅れの原因となる(Wikipediaより加筆修正)

というものです。すなわち周りはそんなことを考えていないから大丈夫だ、という話でもなく、会社もそれなりに大きな規模なので大丈夫という話でもありません。 会社の平均存続期間よりも自分が働く期間の方が長いので、どこかで職場を変える・キャリアの方向性を変えるといったことが必要になってきます。

とはいえ、正常性バイアスとは、こういうことをいっても「自分には関係ないし〜」とか「大げさすぎだろ!」みたいな反応を示すことでもあるので痛い目を見るまでは分からないかもしれません。それも含めて自己責任ということです。

社外で通用するようにしておくことの安全性

どこかで職場を変えたりキャリアの方向性を変えることをしないといけないとすると、その可能性を広げるためには社外で通用するようにしておくことです。 技術でも管理でも構わないですが、自分の「社内価値」ではなく「市場価値」を上げる方向で自分のキャリアを考えていくのが安全です。

そう考えた時に言えそうなこととしては以下のようなことが挙げられるでしょう。

  • レガシー環境の中で枯れた(いまさら新規に誰も使わない)技術にロックインされ続けるのは避ける(一方でCOBOLくらいになるとまた別の市場価値がある)
  • マイナーな商用製品にロックインされ続けるのも同様で、オープンスタンダードを知っておくようにした方がいい
  • 業務知識があるから大丈夫、というのはちょっと待った方がよい。業務知識はお客さんの方が詳しい。業界としての知識は役にたつが、独自に作りこみまくった特定のお客さんの業務を知っていたからといって、その業務がずっと継続するのかも分からないし、そもそもそのお客さんが存続し続けるかも分からない
  • 自己申告評価より他人からどう評価されるかが重要なので、目に見えるアウトプットがあるといい(オープンソース、ブログ、執筆、登壇いろいろ手はある)。そういったものを定期的に棚卸ししたり、自分のレジュメを定期的に更新していくのも良い
  • 管理職側で生きていくなら、自分の会社の独自のマネジメントのやり方だけでなく、一般に通用する色々な理論やベストプラクティスを身につけること

とはいえ全ては価値観の問題

「仕事はそこそこのお金が貰えればよくて、苦しくても週末の趣味を楽しみにして我慢するからいいや」も勿論ありですし、「勉強するのもめんどくさいしそこまでやらなくてもなんとかなるだろ」でもそれで本人が良いなら構わないでしょう。 ただ、他人は自分に起こることの責任は取れないというだけです。人のせい・環境のせいにしないで済むように自分のキャリアを考えてみるとよいと思います。

アジャイルコーチングやトレーニングを提供しています

株式会社アトラクタでは、アジャイル開発に取り組むチーム向けのコーチングや、認定スクラムマスター研修などの各種トレーニングを提供しています。ぜひお気軽にご相談ください。

詳細はこちら
  • スクラム実践者が知るべき97のこと
  • 著者/訳者:Gunther Verheyen / 吉羽龍太郎 原田騎郎 永瀬美穂
  • 出版社:オライリージャパン(2021-03-23)
  • 定価:¥ 2,640
  • スクラムはアジャイル開発のフレームワークですが、その実装は組織やチームのレベルに応じてさまざまです。本書はスクラムの実践において、さまざまな課題に対処してきた実践者が自らの経験や考え方を語るエッセイ集です。日本語書き下ろしコラムを追加で10本収録
  • プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける
  • 著者/訳者:Melissa Perri / 吉羽龍太郎
  • 出版社:オライリージャパン(2020-10-26)
  • 定価:¥ 2,640
  • プロダクト開発を作った機能の数やベロシティなどのアウトプットで計測すると、ビルドトラップと呼ばれる失敗に繋がります。本書ではいかにしてビルドトラップを避けて顧客に価値を届けるかを解説しています。
  • SCRUM BOOT CAMP THE BOOK 【増補改訂版】
  • 著者/訳者:西村直人 永瀬美穂 吉羽龍太郎
  • 出版社:翔泳社(2020-05-20)
  • 定価:¥ 2,640
  • スクラム初心者に向けて基本的な考え方の解説から始まり、プロジェクトでの実際の進め方やよく起こる問題への対応法まで幅広く解説。マンガと文章のセットでスクラムを短期間で理解できます。スクラムの概要を正しく理解したい人、もう一度おさらいしたい人にオススメ。
  • みんなでアジャイル ―変化に対応できる顧客中心組織のつくりかた
  • 著者/訳者:Matt LeMay / 吉羽龍太郎、永瀬美穂、原田騎郎、有野雅士
  • 出版社:オライリージャパン(2020-3-19)
  • 定価:¥ 2,640
  • アジャイルで本当の意味での成果を出すには、開発チームだけでアジャイルに取り組むのではなく、組織全体がアジャイルになる必要があります。本書にはどうやってそれを実現するかのヒントが満載です
  • レガシーコードからの脱却 ―ソフトウェアの寿命を延ばし価値を高める9つのプラクティス
  • 著者/訳者:David Scott Bernstein / 吉羽龍太郎、永瀬美穂、原田騎郎、有野雅士
  • 出版社:オライリージャパン( 2019-9-18 )
  • 定価:¥ 3,132
  • レガシーコードになってから慌てるのではなく、日々レガシーコードを作らないようにするにはどうするか。その観点で、主にエクストリームプログラミングに由来する9つのプラクティスとその背後にある原則をわかりやすく説明しています。
  • Effective DevOps ―4本柱による持続可能な組織文化の育て方
  • 著者/訳者:Jennifer Davis、Ryn Daniels / 吉羽 龍太郎、長尾高弘
  • 出版社:オライリージャパン( 2018-3-24 )
  • 定価:¥ 3,888
  • 主にDevOpsの文化的な事柄に着目し、異なるゴールを持つチームが親和性を高め、矛盾する目標のバランスを取りながら最大限の力を発揮する方法を解説します
  • ジョイ・インク 役職も部署もない全員主役のマネジメント
  • 著者/訳者:リチャード・シェリダン / 原田騎郎, 安井力, 吉羽龍太郎, 永瀬美穂, 川口恭伸
  • 出版社:翔泳社( 2016-12-20 )
  • 定価:¥ 1,944
  • 米国で何度も働きやすい職場として表彰を受けているメンローの創業者かつCEOであるリチャード・シェリダン氏が、職場に喜びをもたらす知恵や経営手法、より良い製品の作り方などを惜しみなく紹介しています
  • アジャイルコーチの道具箱 – 見える化の実例集
  • 著者/訳者:Jimmy Janlén / 原田騎郎, 吉羽龍太郎, 川口恭伸, 高江洲睦, 佐藤竜也
  • 出版社:Leanpub( 2016-04-12 )
  • 定価:$14.99
  • この本は、チームの協調とコミュニケーションを改善したり、行動を変えるための見える化の実例を集めたものです。96個(+2)の見える化の方法をそれぞれ1ページでイラストとともに解説しています。アジャイル開発かどうかに関係なくすぐに使えるカタログ集です
  • カンバン仕事術 ―チームではじめる見える化と改善
  • 著者/訳者:原田騎郎 安井力 吉羽龍太郎 角征典 高木正弘
  • 出版社:オライリージャパン( 2016-03-25 )
  • 定価:¥ 2,138
  • チームの仕事や課題を見える化する手法「カンバン」について、その導入から実践までを図とともにわかりやすく解説した書籍。カンバンの原則などの入門的な事柄から、サービスクラス、プロセスの改善など、一歩進んだ応用的な話題までを網羅的に解説します。
  • Software in 30 Days スクラムによるアジャイルな組織変革“成功"ガイド
  • 著者/訳者:Ken Schwaber、Jeff Sutherland著、角征典、吉羽龍太郎、原田騎郎、川口恭伸訳
  • 出版社:アスキー・メディアワークス( 2013-03-08 )
  • 定価:¥ 1,680
  • スクラムの父であるジェフ・サザーランドとケン・シュエイバーによる著者の日本語版。ビジネス層、マネジメント層向けにソフトウェア開発プロセス変革の必要性やアジャイル型開発プロセスの優位性について説明
  • How to Change the World 〜チェンジ・マネジメント3.0〜
  • 著者/訳者:Jurgen Appelo, 前川哲次(翻訳), 川口恭伸(翻訳), 吉羽龍太郎(翻訳)
  • 出版社:達人出版会
  • 定価:500円
  • どうすれば自分たちの組織を変えられるだろう?それには、組織に変革を起こすチェンジ・マネジメントを学習することだ。アジャイルな組織でのマネージャーの役割を説いた『Management 3.0』の著者がコンパクトにまとめた変化のためのガイドブック