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ryuzeeによるブログ記事。不定期更新

【書評】アジャイルソフトウェアエンジニアリング

みなさんこんにちは。@ryuzeeです。

日本マイクロソフトの長沢さんから献本いただきました。ありがとうございます!

まず結論から言うと、いわゆるアジャイルな開発におけるライフサイクルやプロセスと技術の関係を「実践」という観点でまとめた本としてオススメできる本だと思う(ただしアジャイル初心者の人にとっては難しいです)。

本にマイクロソフトやVisual Studioという文字があるので、それ以外の環境で仕事をしている人はスルーしてしまいがちですが、内容はVisual StudioやTeam Foundation Serverに関するHow Toではなく、現実的にアジャイルなプロジェクトを行う場合に、例えばスクラムやXPをどのように現実的に適用するのか、原理原則とコンテキストをどのように組み合わせ、どうやって具体的な現場でのアクションに落としこむのかについての考え方の本だと言って良いでしょう。 したがってVisual Studioを使わなくてもコンセプトを自分のプロジェクトに適用していくことが可能です。

昨年出たアジャイルサムライは多くの人に読まれた素晴らしい本ですが、そこからアジャイルへの実践へ踏み出した人たちにとっては、じゃあ実際のプロジェクトの中ではどうするの?というところで悩んでいた人も多かっただろうと思います。 より実践の話を知りたい人は、続きとして読むと良いのではないでしょうか。

自分はアジャイルコーチとして多くの組織やチームをアジャイルにするお手伝いをしていますが、その中で「態度重要」と良く言っています。 価値を届ける、そのために改善し続けるという態度が活動の根底に必要だと思うからです。 そして一方で技術面を鍛える、というのを両輪として強く求めています。 スクラムはフレームワークであって、技術的にどうしろ、とは言っていません。 一方でスクラムを使ってプロジェクトを進めようとすると、テスト自動化、継続的インテグレーション、デプロイ自動化、バージョン管理戦略、テスト戦略の策定など多くの技術的要素が求められます(主にXPの部分)。 技術的な土台がないと、顧客に早期から頻繁に価値を届けるという原則を実現するのは困難です。 現実の導入事例を見てもスクラムとXPの組み合わせを行なっているチームは極めて多いです。 その組み合わせ方の参考にもなるでしょう。

なお、本に書いてあることを全てやらないといけないわけではないことに注意してください。 現実のコンテキストやチームの成熟度によって取り組み方は異なります。 本書の40ページでは、以下のように述べられています。

引き算ではなく足し算で手法を構築する 計画重視の手法では、すべてに対応できる万能の方法を構築しておき、それぞれの状況に合わせて削っていく、という考え方が伝統的である。[中略] アジャイル提唱者は、まず比較的少量のプラクティスセットから始めて、そこに費用対効果が明らかに妥当と判断できる追加分を足していくやり方を提案する

現在のソフトウェア開発における各種ツールは高機能化が進んでいますが、全ての機能を必ず使わなければならないというわけではありません。 それはVisual StudioやTeam Foundation Serverも同様であると本書の中で宣言されています。 ツールは高速道路ですが、その上を時速何キロで走れるのかはチームの成熟度に依存しているのです。

その他興味深い点としては9章の「Microsoft Developer Divisionで得た教訓」があります。 ここではVisual Studio 2005とVisual Studio 2008のそれぞれにおける製品開発プロセスの変遷、技術的負債解決への取り組み、企業文化における課題とそれへの対応、ムダの削減への取り組みについて生々しい事例が書かれています。 これはマイクロソフトがどんな課題を組織として認識しどう改善したのかという話で、このような話はあまり表に出てくることはない貴重な話であると言えるでしょう。

なお、純粋にTeam Foundation Serverをどう具体的に使うのか知りたい場合は、Microsoftのホワイトペーパーを参照してみると良いでしょう。

それでは。

アジャイルコーチングやトレーニングを提供しています

株式会社アトラクタでは、アジャイル開発に取り組むチーム向けのコーチングや、認定スクラムマスター研修などの各種トレーニングを提供しています。ぜひお気軽にご相談ください。

詳細はこちら
  • スクラム実践者が知るべき97のこと
  • 著者/訳者:Gunther Verheyen / 吉羽龍太郎 原田騎郎 永瀬美穂
  • 出版社:オライリージャパン(2021-03-23)
  • 定価:¥ 2,640
  • スクラムはアジャイル開発のフレームワークですが、その実装は組織やチームのレベルに応じてさまざまです。本書はスクラムの実践において、さまざまな課題に対処してきた実践者が自らの経験や考え方を語るエッセイ集です。日本語書き下ろしコラムを追加で10本収録
  • プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける
  • 著者/訳者:Melissa Perri / 吉羽龍太郎
  • 出版社:オライリージャパン(2020-10-26)
  • 定価:¥ 2,640
  • プロダクト開発を作った機能の数やベロシティなどのアウトプットで計測すると、ビルドトラップと呼ばれる失敗に繋がります。本書ではいかにしてビルドトラップを避けて顧客に価値を届けるかを解説しています。
  • SCRUM BOOT CAMP THE BOOK 【増補改訂版】
  • 著者/訳者:西村直人 永瀬美穂 吉羽龍太郎
  • 出版社:翔泳社(2020-05-20)
  • 定価:¥ 2,640
  • スクラム初心者に向けて基本的な考え方の解説から始まり、プロジェクトでの実際の進め方やよく起こる問題への対応法まで幅広く解説。マンガと文章のセットでスクラムを短期間で理解できます。スクラムの概要を正しく理解したい人、もう一度おさらいしたい人にオススメ。
  • みんなでアジャイル ―変化に対応できる顧客中心組織のつくりかた
  • 著者/訳者:Matt LeMay / 吉羽龍太郎、永瀬美穂、原田騎郎、有野雅士
  • 出版社:オライリージャパン(2020-3-19)
  • 定価:¥ 2,640
  • アジャイルで本当の意味での成果を出すには、開発チームだけでアジャイルに取り組むのではなく、組織全体がアジャイルになる必要があります。本書にはどうやってそれを実現するかのヒントが満載です
  • レガシーコードからの脱却 ―ソフトウェアの寿命を延ばし価値を高める9つのプラクティス
  • 著者/訳者:David Scott Bernstein / 吉羽龍太郎、永瀬美穂、原田騎郎、有野雅士
  • 出版社:オライリージャパン( 2019-9-18 )
  • 定価:¥ 3,132
  • レガシーコードになってから慌てるのではなく、日々レガシーコードを作らないようにするにはどうするか。その観点で、主にエクストリームプログラミングに由来する9つのプラクティスとその背後にある原則をわかりやすく説明しています。
  • Effective DevOps ―4本柱による持続可能な組織文化の育て方
  • 著者/訳者:Jennifer Davis、Ryn Daniels / 吉羽 龍太郎、長尾高弘
  • 出版社:オライリージャパン( 2018-3-24 )
  • 定価:¥ 3,888
  • 主にDevOpsの文化的な事柄に着目し、異なるゴールを持つチームが親和性を高め、矛盾する目標のバランスを取りながら最大限の力を発揮する方法を解説します
  • ジョイ・インク 役職も部署もない全員主役のマネジメント
  • 著者/訳者:リチャード・シェリダン / 原田騎郎, 安井力, 吉羽龍太郎, 永瀬美穂, 川口恭伸
  • 出版社:翔泳社( 2016-12-20 )
  • 定価:¥ 1,944
  • 米国で何度も働きやすい職場として表彰を受けているメンローの創業者かつCEOであるリチャード・シェリダン氏が、職場に喜びをもたらす知恵や経営手法、より良い製品の作り方などを惜しみなく紹介しています
  • アジャイルコーチの道具箱 – 見える化の実例集
  • 著者/訳者:Jimmy Janlén / 原田騎郎, 吉羽龍太郎, 川口恭伸, 高江洲睦, 佐藤竜也
  • 出版社:Leanpub( 2016-04-12 )
  • 定価:$14.99
  • この本は、チームの協調とコミュニケーションを改善したり、行動を変えるための見える化の実例を集めたものです。96個(+2)の見える化の方法をそれぞれ1ページでイラストとともに解説しています。アジャイル開発かどうかに関係なくすぐに使えるカタログ集です
  • カンバン仕事術 ―チームではじめる見える化と改善
  • 著者/訳者:原田騎郎 安井力 吉羽龍太郎 角征典 高木正弘
  • 出版社:オライリージャパン( 2016-03-25 )
  • 定価:¥ 2,138
  • チームの仕事や課題を見える化する手法「カンバン」について、その導入から実践までを図とともにわかりやすく解説した書籍。カンバンの原則などの入門的な事柄から、サービスクラス、プロセスの改善など、一歩進んだ応用的な話題までを網羅的に解説します。
  • Software in 30 Days スクラムによるアジャイルな組織変革“成功"ガイド
  • 著者/訳者:Ken Schwaber、Jeff Sutherland著、角征典、吉羽龍太郎、原田騎郎、川口恭伸訳
  • 出版社:アスキー・メディアワークス( 2013-03-08 )
  • 定価:¥ 1,680
  • スクラムの父であるジェフ・サザーランドとケン・シュエイバーによる著者の日本語版。ビジネス層、マネジメント層向けにソフトウェア開発プロセス変革の必要性やアジャイル型開発プロセスの優位性について説明
  • How to Change the World 〜チェンジ・マネジメント3.0〜
  • 著者/訳者:Jurgen Appelo, 前川哲次(翻訳), 川口恭伸(翻訳), 吉羽龍太郎(翻訳)
  • 出版社:達人出版会
  • 定価:500円
  • どうすれば自分たちの組織を変えられるだろう?それには、組織に変革を起こすチェンジ・マネジメントを学習することだ。アジャイルな組織でのマネージャーの役割を説いた『Management 3.0』の著者がコンパクトにまとめた変化のためのガイドブック