ブログ

ryuzeeによるブログ記事。不定期更新

フィードバックは選別して一旦プロダクトバックログの末尾に入れる

みなさんこんにちは。@ryuzeeです。

ここに新しくECサイトを作ろうとしているアジャイル開発チームが2つあったとします。期間はどちらも同じです。 1つめのサイトAは、商品を探すための機能として、商品名による検索、価格による検索、発売元メーカーによる検索、評価順による検索、あいまい検索などさまざまな検索機能を用意しましたが、もう1つのサイトBには商品名による検索しかありませんでした。 さてどちらが良いでしょうか。

答えは当然ですが、「これだけでは分からない」になります。

ちょっと条件を追加しましょう。 サイトAは、いろいろな検索方法で商品を探せますが、残念ながら決済機能の開発が間に合わなかったので、まだ商品の購入はできません。一方で、サイトBはクレジットカード(JCBとVISAだけ)は決済できるようになっています。 さて、こうなるとどちらが良いでしょうか。

答えは明確にサイトBになります。サイトAでは、そもそも利用者が商品を買いたいというニーズを解決できていません。

サイトA(特定の機能は充実しているが全体としては役にたたない)

サイトB(機能は少ないが全体としては役にたつ)

つまり重要なのは、個々の機能の深掘りの度合いや詳細さや便利さではなく、そもそも全体としてみたときに解こうとしていた問題を解決できるかどうかです。

(上の図はユーザーストーリーマッピングという見える化の方法です。詳しくは書籍が出ているので読んでみるとよいと思います。)

スプリントレビューでのフィードバックの捉え方

スクラムではスプリントごとにスプリントレビューを行います。スプリントレビューにはプロダクトの関係者をあつめて、作っているものに対するフィードバックを貰ったり、今後の戦略や見通しを共有したりします。

このとき、実際に動作するプロダクトを見ると、さまざまな意見が出ます。このプロダクトには無くて競合プロダクトにある機能についての指摘、機能の改善の提案、操作性やデザインに対する提案、場合によっては、これじゃ使いにくいというクレームのようなものも出るでしょう。

ステークホルダーが上司やほかの部門の偉い人だったり、経営者だったり、発注者だったりすると、「これらのフィードバックにすぐに対応しなければいけない」と思い込んでしまう力がプロダクトオーナーに対して働きやすくなります(残念ながら、なぜかレビューの場でプロダクトオーナーが「すぐ直します」などと宣言してしまうのを見かけることもあります)。

しかし、直近に作ったものに対するフィードバックに対してすぐにとりかかることは危険です。 理由は最初に出した例のとおりで、こういったフィードバックを真に受けて着手の順番を上げてしまうと、いつまでたっても全体として役にたつ状態にはならず、リスクだけが積み上がっていくからです。

フィードバックは選別が必要

プロダクトにはプロダクト固有の考え方があります。やること・やらないことについての思想を決めておくこともあります。 フィードバックは重要ですが、すべてのフィードバックが役に立つというのは幻想です。 立場が上の人が出したフィードバックだからといって価値があるとは限りません。 お金を出している人のフィードバックだからといって価値があるとは限りません。 つまり、フィードバック自体の中身を踏まえて、必要なものと不要なものとに選別する必要があります。

プロダクトオーナーの仕事は、限られた時間やリソース、予算の中で、最大の成果をあげることです。 プロダクトオーナーは無駄なものを作らないようにし、はっきりと「No」を言うことが重要になります。

選別したフィードバックはまずプロダクトバックログの末尾に入れる

選別したフィードバックはプロダクトバックログアイテムとして追加しますが、一旦はすべて末尾に入れます(INBOXという領域を作って、そこに入れることもあります)。そのあとにプロダクトバックログの全体を見ながら、どの程度の順位にするか考えます。

人間の習性として「いま思いついたアイデアは良いものに見える」という傾向があります。したがって、選別の結果残ったフィードバックは妥当なものとしてすぐに取り入れたくなります。しかし**「いま思いついたアイデアが後になっても良いアイデアだった」ことは少ないので、冷静な判断が必要**です。 デフォルトでしばらく寝かせておくくらいで丁度よいはずです。

あとは、プロダクトバックログリファインメントなどで、全体をみながら適宜順番を見直していくと良いでしょう。

並び順の考え方は、以下の観点の組み合わせになります。

  • 高い価値のものから
  • 市場投入への時間を短く
  • リスクを最小化
  • 将来の無駄を避ける
  • 発生するコストや工数とのトレードオフ

それでは。

アジャイルコーチングやトレーニングを提供しています

株式会社アトラクタでは、アジャイル開発に取り組むチーム向けのコーチングや、認定スクラムマスター研修などの各種トレーニングを提供しています。ぜひお気軽にご相談ください。

詳細はこちら
  • スクラム実践者が知るべき97のこと
  • 著者/訳者:Gunther Verheyen / 吉羽龍太郎 原田騎郎 永瀬美穂
  • 出版社:オライリージャパン(2021-03-23)
  • 定価:¥ 2,640
  • スクラムはアジャイル開発のフレームワークですが、その実装は組織やチームのレベルに応じてさまざまです。本書はスクラムの実践において、さまざまな課題に対処してきた実践者が自らの経験や考え方を語るエッセイ集です。日本語書き下ろしコラムを追加で10本収録
  • プロダクトマネジメント ―ビルドトラップを避け顧客に価値を届ける
  • 著者/訳者:Melissa Perri / 吉羽龍太郎
  • 出版社:オライリージャパン(2020-10-26)
  • 定価:¥ 2,640
  • プロダクト開発を作った機能の数やベロシティなどのアウトプットで計測すると、ビルドトラップと呼ばれる失敗に繋がります。本書ではいかにしてビルドトラップを避けて顧客に価値を届けるかを解説しています。
  • SCRUM BOOT CAMP THE BOOK 【増補改訂版】
  • 著者/訳者:西村直人 永瀬美穂 吉羽龍太郎
  • 出版社:翔泳社(2020-05-20)
  • 定価:¥ 2,640
  • スクラム初心者に向けて基本的な考え方の解説から始まり、プロジェクトでの実際の進め方やよく起こる問題への対応法まで幅広く解説。マンガと文章のセットでスクラムを短期間で理解できます。スクラムの概要を正しく理解したい人、もう一度おさらいしたい人にオススメ。
  • みんなでアジャイル ―変化に対応できる顧客中心組織のつくりかた
  • 著者/訳者:Matt LeMay / 吉羽龍太郎、永瀬美穂、原田騎郎、有野雅士
  • 出版社:オライリージャパン(2020-3-19)
  • 定価:¥ 2,640
  • アジャイルで本当の意味での成果を出すには、開発チームだけでアジャイルに取り組むのではなく、組織全体がアジャイルになる必要があります。本書にはどうやってそれを実現するかのヒントが満載です
  • レガシーコードからの脱却 ―ソフトウェアの寿命を延ばし価値を高める9つのプラクティス
  • 著者/訳者:David Scott Bernstein / 吉羽龍太郎、永瀬美穂、原田騎郎、有野雅士
  • 出版社:オライリージャパン( 2019-9-18 )
  • 定価:¥ 3,132
  • レガシーコードになってから慌てるのではなく、日々レガシーコードを作らないようにするにはどうするか。その観点で、主にエクストリームプログラミングに由来する9つのプラクティスとその背後にある原則をわかりやすく説明しています。
  • Effective DevOps ―4本柱による持続可能な組織文化の育て方
  • 著者/訳者:Jennifer Davis、Ryn Daniels / 吉羽 龍太郎、長尾高弘
  • 出版社:オライリージャパン( 2018-3-24 )
  • 定価:¥ 3,888
  • 主にDevOpsの文化的な事柄に着目し、異なるゴールを持つチームが親和性を高め、矛盾する目標のバランスを取りながら最大限の力を発揮する方法を解説します
  • ジョイ・インク 役職も部署もない全員主役のマネジメント
  • 著者/訳者:リチャード・シェリダン / 原田騎郎, 安井力, 吉羽龍太郎, 永瀬美穂, 川口恭伸
  • 出版社:翔泳社( 2016-12-20 )
  • 定価:¥ 1,944
  • 米国で何度も働きやすい職場として表彰を受けているメンローの創業者かつCEOであるリチャード・シェリダン氏が、職場に喜びをもたらす知恵や経営手法、より良い製品の作り方などを惜しみなく紹介しています
  • アジャイルコーチの道具箱 – 見える化の実例集
  • 著者/訳者:Jimmy Janlén / 原田騎郎, 吉羽龍太郎, 川口恭伸, 高江洲睦, 佐藤竜也
  • 出版社:Leanpub( 2016-04-12 )
  • 定価:$14.99
  • この本は、チームの協調とコミュニケーションを改善したり、行動を変えるための見える化の実例を集めたものです。96個(+2)の見える化の方法をそれぞれ1ページでイラストとともに解説しています。アジャイル開発かどうかに関係なくすぐに使えるカタログ集です
  • カンバン仕事術 ―チームではじめる見える化と改善
  • 著者/訳者:原田騎郎 安井力 吉羽龍太郎 角征典 高木正弘
  • 出版社:オライリージャパン( 2016-03-25 )
  • 定価:¥ 2,138
  • チームの仕事や課題を見える化する手法「カンバン」について、その導入から実践までを図とともにわかりやすく解説した書籍。カンバンの原則などの入門的な事柄から、サービスクラス、プロセスの改善など、一歩進んだ応用的な話題までを網羅的に解説します。
  • Software in 30 Days スクラムによるアジャイルな組織変革“成功"ガイド
  • 著者/訳者:Ken Schwaber、Jeff Sutherland著、角征典、吉羽龍太郎、原田騎郎、川口恭伸訳
  • 出版社:アスキー・メディアワークス( 2013-03-08 )
  • 定価:¥ 1,680
  • スクラムの父であるジェフ・サザーランドとケン・シュエイバーによる著者の日本語版。ビジネス層、マネジメント層向けにソフトウェア開発プロセス変革の必要性やアジャイル型開発プロセスの優位性について説明
  • How to Change the World 〜チェンジ・マネジメント3.0〜
  • 著者/訳者:Jurgen Appelo, 前川哲次(翻訳), 川口恭伸(翻訳), 吉羽龍太郎(翻訳)
  • 出版社:達人出版会
  • 定価:500円
  • どうすれば自分たちの組織を変えられるだろう?それには、組織に変革を起こすチェンジ・マネジメントを学習することだ。アジャイルな組織でのマネージャーの役割を説いた『Management 3.0』の著者がコンパクトにまとめた変化のためのガイドブック