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プロダクトの話をしているか、プロセスの話をしているか
みなさんこんにちは。@ryuzeeです。2026年3月4日に新刊の訳書『Aligned ―プロダクト開発におけるステークホルダーとの関係性の築き方』がオライリー・ジャパンから発売になりますのでよろしくお願いします。
これまでいろいろなチームを見てきた観察結果を1月にXでいくつか投稿したんですが、明確化のためにテキストにまとめておくことにします。
うまく行ってるチームはプロダクトの話ばっかりしてて、そうじゃないチームはプロセスの話ばっかりしている。
— Ryutaro YOSHIBA (@ryuzee) January 9, 2026
そして、うまく行ってるチームはだいたい自己評価として、別にうまく行ってると思ってない。
そういうもの。
まず誤解のないように言っておくと、プロセスの話をすること自体が悪いわけではありません。 ただ、「チームの会話の中心がどこにあるか」は、そのチームの状態を結構うまく表していると考えてよいでしょう。
うまくいっているチームの会話
うまくいっているチームでは、会話の大半がプロダクトの話です。
- この機能は、誰のどんな課題を解決しているのか
- この仮説は、本当に検証できているのか
- 今回の結果を踏まえると、次に何を変えるべきか
- そもそも、この方向性でよいのか
話題の中心にあるのは、ユーザーや価値、仮説、学習、方向性といったものです。
スクラムのイベント・作成物・責任の話や、プロセスの話が出ないわけではありませんが、それらはたいてい「プロダクトの話を前に進めるため」に登場します。プロセスは前提条件や絶対守らなければいけないルールではなく、調整の対象として扱われます。
プロセスの話ばかりしているチーム
一方で、うまくいっていないチームほど、次のような話が増えがちです
- それはスクラム的に正しいのか
- このイベントには意味があるのか
- ストーリーポイントの付け方が間違っているのでは?
- ベロシティが下がっているのは問題だ
- スクラムマスターがどうたらこうたら
これらの指摘自体が間違っているわけではないですし、話している人たちも別にふざけているわけではなく真剣です。 ただ、プロダクトの話があまり出てきません(ちなみに「効率」「アサイン」「タスク」「見積り」「締切り」「心理的安全性」「生産性」あたりが頻出単語です。どのくらいこの単語が出てくるか数えてみるといいと思います)。
プロダクトの何を良くしたいのか、どんな学習をしたいのか、何が分かっていないのか、それはなぜなのか、といった話が抜け落ちたまま、プロセスだけが話題の中心になっていきます。
なお、当然ながら、初めてアジャイルやスクラムに取り組んだ場合は、最初のうちはこの手の議論が出るのは普通です(ずっと続いているなら疑いましょう)。
みんな分かっているけど引きずられる
ここでややこしいのは、「プロダクトが重要だ」ということ自体は、ほとんどの人が頭では分かっている、という点です(社会人として給料を貰うには、会社が売上や利益を上げないといけないわけなので当然です)。
プロダクトとかサービスがお金を生むんだから、プロセス以上にプロダクトが重要だ、なんてみんな頭では分かってる。でもチームや個人の目標設定みたいな身近な具体的なやつに引きずられる。たとえそれがプロダクトに良い影響がないやつだとしてもね。そういうもん
— Ryutaro YOSHIBA (@ryuzee) January 13, 2026
でもプロセスに引きずられてしまう。 それはマインドセットや個人の資質の問題というよりは、組織の構造や仕組みの問題です。
プロダクトに対する取り組みの効果は、すぐに見えるものもあれば、そうでないものもあります。 たとえば、UIの文言を変えた結果や、導線の改善、A/Bテストなどのように、比較的短期間で数字に反映されるものもあります。 一方で、プロダクトの方向性や価値、仮説に関わる取り組みは、効果が出るまでに時間がかかることが多いです。
さらにややこしいのは、プロダクトに関する指標の多くが遅行指標である、という点です。 売上や継続率、利用頻度といった指標は、何かを変えた「結果」として後から現れます。 そのため、取り組みと結果の因果関係が見えにくく、「本当にこれで良かったのか」が分かるまでに時間がかかります(もちろん代理指標を探しますが、そこまで踏み込まないチームも多々あります)。
こうした特性もあって、プロダクトの話はどうしても抽象的になりがちです。
一方で、
- チームや個人に設定された目標
- タスクの消化量や完了率
- 見積りどおりに進んでいるかどうか
- ベロシティや消化ポイント
- 今月とか今期に達成した「成果」
といったものは、具体的ですぐに評価できます(し、されます)。人はどうしても、目先で測れるものに引きずられます。 「目標は定量的にすべし」と思考停止のマネージャーが「見やすい数字」を重視すれば、メンバーはそれにあった行動をするようになるのは当然です。 結果的に、プロダクトの話よりも、プロセスの話のほうが簡単で扱いやすいと判断するわけです。
プロセスが整えばプロダクトの話ができるわけではない
もうひとつ重要なのが「プロセスが整えばプロダクトの話ができるわけではない」という点です。
プロセスがうまく行ってるからプロダクトの話ができるわけじゃなくて、プロダクトをうまく行かせるにはプロダクトに必要な話に軸足置くし、プロダクトの問題を解決できるようにプロセスも適宜いじくるという感じ。「プロセスは完璧だ!さぁプロダクトだ!」なんてならんのよ
— Ryutaro YOSHIBA (@ryuzee) January 9, 2026
プロダクトの話をしていないチームが、いくらプロセスを整えたところで、突然プロダクトの議論が活発になることはありません。
むしろ、
- プロダクトの課題に向き合う
- 分からないことを分からないと認める
- 仮説を置いて検証する
こうしたことをやり始めるからこそ、「今のプロセスでは合わない」という違和感を持てるようになります。 プロセスは、「正しい」とか流行っているとかかで選ぶものではありません。 今のプロダクトの問題を解決できるかどうかを見ながら、適宜調整するものです。
だからこそ、うまくいっているチームは不安そうに見える
自分の観測範囲では、うまくいっているチームほど、「別にうまくいっているとは思っていない」ことが多いです。
それは、
- プロダクトとしてもっと実現したい世界がある
- まだ仮説の途中だと思っている
- 今の結果を全面的には信用していない
- 次に失敗する可能性を常に考えている
からです。
プロダクトを中心に置く限り、完全な安心はありません。 仮説が外れるかもしれないし、競合が一気に台頭するかもしれないし、売上の成長が鈍化するかもしれないし、いろいろ心配は尽きません。そして、自分たちに与えられた時間以上に、やりたいこと・やらなければいけないことが多いと考えているわけです。 しかし、その心配や不安があるからこそ、プロダクトを軸に置き続けることができると言ってよいかもしれません。
ということで、マネージャーやスクラムマスターは「チームがプロダクト主導」になるようにあの手この手で働きかけていかなければいけません。大変ですねぇ。
それでは。
Aligned ―プロダクト開発におけるステークホルダーとの関係性の築き方
- 著者/訳者:Bruce McCarthy、 Melissa Appel
- 出版社:オライリー・ジャパン
- 発売日:2026-03-04
- 単行本(ソフトカバー):300ページ
- ISBN-13:9784814401499
- ASIN:4814401493






















